2008年11月のご挨拶

こんにちは。随分涼しくなってきました。抜けるような青空の下、街路樹の葉もだんだん赤く染まってきて、冬の足音が聞こえてきました。気がつけばも う11月。時が経つのは本当に早いもので2008年も残すところあと2ヶ月です。あと2ヶ月、なんとか充実して過ごしたいものです。

定期的 にご覧くださっている方、ご挨拶の更新を1ヶ月さぼってしまい、申し訳ありませんでした。先月は突然涼しくなったためか、体調を崩してしまったり、精神的 にスランプ状態に陥ったり、日々の生活をこなすことに精一杯になってしまいました。忙しかったのですが、やはり体調を崩してしまうと充実感もなかなか味わ えないものです。やはり、一番大切なのは、心と体の健康だと実感します。

これまで、私が精神的に、肉体的に厳しい状況に追い込まれたとき、 救ってくれたのは、周囲の温かい人の存在と「音楽」でした。モーツァルトの温かさと悲しさ、ベートーヴェンの葛藤と喜び・・・他の尊敬する素晴らしい数々 の作曲家の音楽・・・音楽そのものが持つ「人間らしさ」がいつも傍にいてくれたような気がします。自己嫌悪、死の恐怖、孤独感、絶望、きっともっと深い苦 しみを知っている人の言葉のような力強さ、温かさこそが素晴らしい音楽の魅力なんだと私は信じています。だからこそ、私は音楽を演奏する道を選んだのだと 思っています。

しかし、改めて言うまでもないことですが、音楽を職業としようということは、なかなかに厳しいものです。作曲家が人生をかけ て書き残した音符を音にするということが、どんなにか重い作業なのか、折に触れて思い知らされます。しかも指揮者にいたっては自分で音を出すわけではな い、時には自分では弾けない楽器を極めた奏者に自分の望む音を出していただかなくてはならない。自分のやろうとしていることの遠大さに改めて気づいたと き、いままで勇気付けてくれた音楽の大きさ、奥深さに苦しんでいる自分がいます。よくできた音楽であればあるほど、なにかやろうとすればするほど泥沼には まるような状況にもよく出会います。

そんな音楽に苦しめられている状況で、自分はいったい何に救いを求めたらいいのか迷うこともあります。

「逃げない」これが今の私のテーマです。本当に大切に思うなら、そこから逃げてはいけない。音楽で苦しんでいても、今まで支えてくれて自分にとって大切な音 楽、どんなささいなことでもごまかしや目を瞑ることで逃げてはいけない。当たり前のことで、口で言うのは簡単ですが、実に厳しいことです。大学を卒業して 活躍されている先輩指揮者がおっしゃってました。「スランプに陥ったときは、ひたすら楽譜に戻る。」そのとおりだと思いました。きちんと突き詰めていけば 音楽がちゃんと方向性を示してくれる、そういうことだと思います。

先日、私の所属するあるアマチュアオーケストラの打楽器の方がお亡くなり になりました。ついに親しくお話をするようなことはなかったのですが、いつも誠実に、ティンパニを叩いておられた姿が思い起こされます。思えば、今、命が あって、音楽を演奏できる、楽しむことができる、そのこと自体、なんとありがたいことなのでしょうか。改めて、心よりご冥福を申し上げます。