2005年9月のご挨拶

こんにちは。アメリカは大きなハリケーンに次々と襲われ大変なことになっています。カトリーナでは 1000人以上の死者が出てしまったという事実が、先進国アメリカで起こったということは、私には驚きでした。東京でも9月4日の夜の台風14号による大 雨はすさまじいものでした。ちょうど車で三鷹にいて、洪水の中をホバークラフトに乗ってるかのごとくでありました。

先日は、閉幕直前の愛・ 地球博へ0泊3日の強行スケジュールで行ってまいりました。つまり、往復は深夜バスなのです。(まだまだ私も若いものです。)連休の合間の平日にもかかわ らずすごい人出で、企業パビリオンに行くことはできませんでしたが、ヨーロッパを中心に海外各国のパビリオンを堪能してきました。

もうひと つ、9月、私には衝撃的な出来事がありました。それは、ウィーン音大助教授の湯浅勇治先生に教えていただく貴重な機会を得られたことでした。以前、大学を 出てすぐの頃、先生に教えていただこうと伺って、断られてしまったことがありました。プロを目指すものしか教えないと公言されている先生にとって、その当 時の私の甘さを一瞬で見抜かれたのだと思います。なので、今回、先生の前で棒を振ることができただけで、とても嬉しいことでした。

何回かコンサートを重ね、いろいろな先生に教わり、お褒めの言葉もいただいてきた自分は、湯浅先生にも力を認めていただけるのではないかという期待がありました。ですが、そんな思い上がった期待は、まさに瞬殺、一瞬で粉々になってしまいました。

「指揮は自分の音楽に対する感情を伝えるものだ」と考えてきた自分にとって、先生のお教えは天変地異、驚天動地、とてつもない革命でありました。「大前提とし て、音楽に感情移入はもってのほかである。頭は徹底的に冷静で、指揮者は感情論に走ってはいけない、どう演奏すべきかはすべて、楽譜に書いてある。」とい う先生のお言葉は最初、なかなか自分の中で消化できないものがありました。

ところが、1日8時間という体力と精神力勝負のグループレッスン (先生は妥協がなくとても厳しい。)を連日のように重ねていくたびに、先生のおっしゃることの深さがだんだん見えてきたのでした。音楽がどういう構成でで きているか、リズムの塊はどうか、和声はどう進行しているか、シンコペーション、ヘミオラはどう演奏するか、ちゃんと正確に理解すること(「ちゃんと正確 に」という言葉の意味がものすごく重いのです。)、そして楽譜に書かれている音、指示をどう演奏したら効果的に響くかを優先すべきだということ、とても当 たり前のことに、気づくことができたのです。先生は、今活躍している一流の指揮者でも、このことが達成されている人はごく僅かだとおっしゃっていました。 本当の意味で先生の言葉を自分のものにするのはまだまだ先のように思います。不足している知識、分析能力を補って、作曲家の意図する世界に近づけるよう、 これからも努力を重ねていきたいと思います。