2007年5月のご挨拶

ライプツィヒのゲヴァントハウス前の写真
5月も半ば過ぎてしまいました。最近のウィーンは日差しが強く、30度前後という本当に暑い日が続いています。日本であれば、公園で休む時人は日陰 に入るのですが、ヨーロッパは冬が長く厳しいからでしょうか、陽が当たるベンチや噴水で日光浴を楽しむ人を多く見かけます。美味しいジェラート屋には人だ かり(あまり規則正しく並ばないため)ができています。昨日はウィーンフィルシェーンブルンコンサートに行ってきました。宮殿の庭を埋め尽くさんばかりの 大勢の人にもまれながら、ゲルギエフ氏のロシア音楽を楽しみ(!?)ました。(野外コンサートなのでマイクを通すのが残念ですが。)春の祭典など壮絶な演 奏でしたが、もう少し余裕のある場所で聴きたかったです。

今月もウィーンは世界一流のマエストロが結集しています。アーノンクール、ガッ ティ、ブーレーズ、ティルソン・トーマス、ノリントン、ゲルギエフ、マゼール、(敬称略)まだまだいらっしゃいます。全ての方のコンサートやリハーサルを 聴き、何人かの方と個人的にご挨拶をさせていただいたりもしました。全ての出会いが貴重で、それぞれに大変印象深いものでした。中でも小澤征爾さんが ウィーンフィルを指揮されたマーラーの交響曲第2番は印象的でした。

リハーサルから素晴らしい集中力で音楽作りをされていました。日本人の 指揮者の方をムジークフェライン大ホールで見たのは初めてだったからでしょうか、小澤さんの体格がいつもより小柄に見えたのですが、その分、どの指揮者よ りも全身で音楽を表現し、無駄がなく、すべてのザッツ(合図)がタイミングを全くはずすことなく一つ一つ魂を込めて出しておられていることに改めて驚かさ れました。今ウィーンフィルを振っている指揮者の中でここまで綿密に楽譜を読み込んで、音を身体に染み込ませてくる指揮者は小澤さんをおいていないように 思いました。リハーサル終了後、お話しする機会があったので、私が改めて感動したことをお伝えすると、「それが商売ですから」とこともなげにおっしゃいま した。高校時代にサイトウキネンオーケストラの演奏をLDで見て感動し、指揮の道へ進む勇気を下さいました。以来ずっと世界の一線でずっと憧れであり目標 であり、今でも勇気を下さる小澤さんに心から感謝と尊敬の気持ちを捧げたいと思います。来月のウィーンフィルの定期が楽しみです。

最後に先月27日に亡くなられたチェリストであり指揮者であったロストロポービッチ氏について一言述べようと思います。小澤さんとのドボコンの演奏を映像で見た時 が、私のロストロポービッチ氏の音楽との出会いでした。無論完璧なテクニックの上に、独特の暖かさとすすり泣くような悲しさが混じった深みのある素晴らし い演奏でした。上野文化会館でチェロのコンサートをされた時、楽屋口で初めてお会いできた時も、私が音楽の勉強をしている旨を申し上げると、笑顔で祝福し て下さり、私の肩を抱き寄せて記念写真に応じてくださいました。お元気であれば、来月、ウィーンフィルで戦争レクイエムを振られる予定でした。そこでの再 会を心待ちにしておりましただけに、本当に残念です。温かい笑顔が思い起こされます。ご冥福をお祈りします。